ひとつはNEWSであり、もうひとつがKinKi Kidsである。どちらも「見えない星」や「黒い涙」とは違う僕のもうひとつの一面をお伝えできると思う。というかどちらかというと、こういうスタイルがシンガーソングライター時代からのもともとの僕のスタイルだと言えるかもしれない。
さて、今回のテーマは僕が作詞、作曲を手がけたKinKi Kidsの「ノー・チューンド」である。
誤解を恐れずに言ってしまうならば、この曲は(自分ではということだけれど)現時点での僕の最高傑作だと思っている。もちろん他の曲が思いいれのないくだらない曲だというつもりなんてない。全部僕の大切な子供たちである。
でも、この曲には、僕のなかの本当に大事にしている本当に大切な何かを託せたと思っている。そういう意味でこの曲は僕にとって本当に特別な曲なのである。
職業作家とかそんなのとは別の次元で、一人の音楽家として、本当に心を削って僕はこの楽曲を作った。
この曲は僕が関西から東京に上京したてのときのことを歌っている。
僕は24歳で、自分の進むべき道に迷っていた。ミュージシャンとしてデビューも決まり、傍目からすると何も不満などないような状況に思われていたかもしれないけれど、僕の心は暗い沼のなかでのたうっていた。
僕は本当にアーティストとしてやっていくべき人間なんだろうか?なぜ僕は自分をカッコいいアーティストだと思えないんだろうか?このまま歌手としてやっていっていいんだろうか?
まだデビューする前だったけれど、僕はどうしようもなく高い高い壁にぶちあたっていた。
今でも覚えている。僕はそのとき、渋谷のモヤイ像の前で始発を待っていた。友人と飲んだものの終電がなくなり、タクシーで帰る金もないまま、東急の駅ビルの閉まったシャッターにもたれていたのだ。
僕の脇では一人の若いストリートミュージシャンが声を振り絞って哀しい歌を歌っていた。なんだかその哀しい声は今の僕自身であるような気がして、気づけば思わず僕は彼に話しかけていた。
「ずいぶん切ない歌を歌うんだね」
彼は歌をやめて、ギターを置き、僕に微かに微笑みかけた。
「実は恋人と数日前に別れて、哀しくたまらなくて、ずっと歌ってなかったんだけど、久しぶりにストリートで歌おうと思ったんだ。」
一晩だけの関係の気安さもあったのだろう。僕らは仲良く話をした。彼の別れた彼女のこと、僕がデビューが決まっているミュージシャンであること。でも迷っていること。何処にも行けないこと。
「じゃあ、俺と同じだ。俺は今でも別れた彼女のことが好きなんだ。そしてその気持ちはどこにも行き着かないと自分でもわかってる。」
しばらくとりとめのない話をしたあとで、僕らは黙り込んだ。
ふと目を上げると、いつの間にか街は白み始めている。
夜明けだ。
夜明けの渋谷を皆さんはみたことがあるだろうか?僕は夜明けの渋谷を見たのは初めてだった。いや、そもそもこういう状況で始発を待ちながら朝の東京という大都会を見ること自体が僕にとっては今まで経験したことのないことだったのだ。
明け方の渋谷は、夜がまとっている虚飾を全てはぎとられたように、今やその醜い姿を僕らの目の前にさらしていた。目の前を轟音をあげて過ぎていくトラックからハトが悲鳴を上げながら逃げ惑い、散乱したゴミをカラスが醜悪な声をあげながらついばんでは飛び立っていく。
大都会、東京。
それは僕が漠然と想像していたような綺麗で華やかな世界ではなかった。
「何をしているんだろう?」と僕は思った。僕はこんな街のなかで一体何処に行こうとしているんだろう、と。
僕はいつしかそんな夜明けの街の向こうに救いを求めるように遠く目をこらしていた。でも目をこらせばこらすほど、何かが見えそうで、でもその肝心なものだけが、ぼんやりして見えない。
あーしたのことなんて・・・・。
胸のなかでふとメロディが鼓動した。
明日のことなんて
うまくやれるよって口に出すだけで
何かが変わるなんて
そんなはずないんだ
*
そのストリートミュージシャンとは、お互い名前も知らないまま別れた。今彼は何をしているのだろう?彼は自分の心の行き場所を見つけられたのだろうか?
僕のほうは、それから歌手をやめ、作家になった。
自分の夢が叶ったのかどうかはよくわからない。でもこれだけは言える。そのときの渋谷のゴミだらけの風景がなければ今僕はここに存在しないだろう、と。
この曲が普遍的に人々の心を動かすものなのかどうかは僕はわからない。あまりにも個人的な経験を歌ったものだからだ。でも、その僕の想いがたくさんの人を勇気付けたり、心を震わせるものであって欲しいと僕は願っている。
*
ノー・チューンド
閉まったシャッターにもたれて
僕らはとりあえず始発を待った
しゃがんだ足元の砂がざらついた
とりとめない話に笑い飽きて
ふと街を眺めてみたけど
肝心なものだけがいつもぼんやりして見えない
明日のことなんて
うまくやれるよって口に出すだけで
何かが変わるなんて
そんなはずないんだ
僕らだってやれるよって
そう チューニングの合わないギターみたいに
調子はずれで いいさ 行くんだ
答えなんてどこにだって
何通りもきっとあるはずだから
それぞれに手探りでもいい 生きて行けばいいんだ
街は次第に白んでく
洗いざらしたみたいな色になる
少しずつリンカクを取り戻していく
足早に急ぐ早起きの人をみると
なんかやましくなって
隙間埋めるように妙に口数が増えた
やりたいことなんて
いつか見つかるよって
焦ってないフリで言った
言葉に背中押された
僕らだって飛べるよって
手を伸ばした青すぎるあの空へと
届かなくてもいいさ 行くんだ
痛みなんて涙だってきっと僕らが生きる証だから
何度でも迷ったっていい生きて行けばいいんだ
明日のことなんて
うまくやれるよって口に出すだけで
何かが変わるなんて
そんなはずないんだ
僕らだってやれるよって
そう チューニングの合わないギターみたいに
調子はずれでいいさ 行くんだ
答えなんてどこにだって
何通りもきっとあるはずだから
それぞれに手探りでもいい 生きて行けばいいんだ
そう 手探りでもいい 生きて行けばいいんだ
*
そう、僕は長い長い時を経て、今胸を張って言える。
手探りでもいい、迷いながらでもいい、ただ精一杯僕らは生きていけばいいんだ、と。
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